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離職の兆候は、監視では見つからない

辞める人の兆しは、振り返れば確かにあった。それを先に見つけようとして監視に寄ると、かえって見えなくなります。兆しがどこに出るのか、書き続けてもらうために受け取る側が先に決めておくことを整理しました。

退職の相談を受けたあと、多くの経営者が同じことを言います。「そういえば、あの頃から様子が違った」。振り返れば兆しは確かにありました。ただ、それが兆しだったと分かるのは、たいてい結果を知ったあとです。

勤怠や数字に出る頃には、決まっている

遅刻が増えた、有給の取り方が変わった、会議で発言しなくなった。こうした変化はたしかに兆しですが、目に見える行動として出るころには、本人の中で結論が固まりつつあることが少なくありません。

もっと早い段階で表に出るのは、行動ではなく言葉のほうです。書く分量が減る。固有名詞が消えて「いろいろありました」で済むようになる。困っていることを書く欄が、毎週きれいに空欄になる。どれも数字にはならない変化です。

見つけようとするほど、見えなくなる

ここに厄介な性質があります。「離職の兆候を検知します」と掲げた仕組みを入れれば、書く人はそのことを知ります。そして、見張られていると分かった人は、見張られて困ることを書かなくなります。

残るのは当たり障りのない報告だけです。仕組みは正常に動いているのに、肝心の兆しだけが入ってこない。集めようとすると消える、という逆説がここにあります。

ですから最初に決めるべきなのは、どうやって見つけるかではありません。書いたものがどこへ行くのか、のほうです。

受け取る側を、先に決めて、先に伝える

困っていることを書いてもらうなら、次の三つを、集めはじめる前に本人へ伝えておく必要があります。

誰が読むのかを限る。直属の上司ひとりまで、と決めます。人事や役員へ自動で上がることはない、と言葉にして伝えます。読む人が増えるほど、書ける内容は減ります。

評価には使わないと決める。弱音を書いた人が査定で不利になる可能性が少しでもあれば、誰も書きません。決めるだけでなく、決めたことを本人に伝えるところまでが必要です。

返ってくるものを変えない。打ち明けた翌週から扱いが変わる、というのが書く側にとっては一番こわいことです。心配は静かに扱い、本人へ返すことばはいつもどおりに保ちます。

この三つが先にあると、「うまくいかなかったこと」の欄は、報告の欄ではなく相談の欄になります。兆しはそこに出ます。

気づいたときに、何を言うか

兆しに気づいたとき、いきなり「辞めるつもりなのか」と聞くのは逆効果です。多くの場合、本人の中でもまだ言葉になっていません。書かれた内容そのものには触れず、「来週どこかで三十分もらえますか」とだけ伝えるほうが届きます。

話を聞いても、手当てできることが何もない場合もあります。それでも構いません。これは引き留めるための技術ではなく、手当てできたはずの困りごとで人を失わないための仕組みです。決めた人の決断は、変えさせるものではありません。

兆しは、いい週にも出る

最後にひとつ。兆しは不調の側だけに出るとは限りません。任される仕事が何か月も変わらない、学ぶことがなくなった、伸びている実感がない。順調に見える人が静かに離れていくときは、たいてい困りごとではなくこちらのほうです。

困ったことだけを聞く仕組みでは、この種の兆しは拾えません。今週やったことを毎週読んでいれば、変化のなさとして見えてきます。

とどく週報AIのこと

私たちが作っているとどく週報AIは、週報の「うまくいかなかったこと」から、退職を考えている・人間関係に困っている・心身の調子を崩している、といったことが読み取れたときだけ、直属のリーダーにメモを届けます。そのまた上のリーダーには渡りません。本人へ返すことばは、いつもどおり前向きなまま変わりません。受けた感謝の数のような、人を並べる指標も作っていません。

仕組みを入れるかどうかにかかわらず、先に決めておくことは同じです。誰が読むのか、何には使わないのか。そこが決まらないうちは、兆しは書かれません。